TOP > 雑記 > DiMAGE Scan Elite 5400スキャナーレンズによるマクロ撮影
Posted: 1 Mar. 2022
Update: 12 Aug. 2023
マクロ撮影用には,写真撮影用のマクロレンズだけでなく,引き伸しレンズや産業用レンズ等も使用されます.産業用レンズとしてはPrinting-NIKKORなどが特に有名で,非常に高精細な描写を得ることができます.
マクロ撮影用レンズには「フィルムスキャナー用のレンズ」も使用できます.フィルムを高精細にスキャンするためのレンズですのでマクロ撮影用としても期待できる,というわけです.かつてカメラメーカー各社からはフィルムスキャナーがいくつもリリースされており,特にニコンやミノルタには非常に高性能なスキャナーがラインナップされていました.
ニコンのフィルムスキャナーとしてはSUPER COOLSCAN 9000EDや8000EDが特に性能が高く,これらに使用されるスキャナーレンズはマクロ撮影用としても非常に高性能です.SUPER COOLSCAN 9000ED/8000EDはブロニーフィルムのスキャンにも対応することからイメージサークルが大きく,マクロ撮影に使用した場合,フルサイズでも周辺画質も劣化しにくい特徴があります.ただしこれら機種は現在でも入手するには非常に高価です.
ミノルタも高性能なフィルムスキャナーをいくつかリリースしていました.有名なのはDiMAGE Scan Elite 5400や5400IIです.これらは35mmフィルム用ですが,解像度が5400dpiと非常に高精細です.DiMAGE Scan Elite 5400/5400IIはSUPER COOLSCAN 9000ED/8000EDと比較すると(価格的に)入手しやすいので,今回はDiMAGE Scan Elite 5400(AF-5400)を入手してみました.
レンズを取り出すために,もったいないですがスキャナー本体を分解します.
上の写真中の矢印部の黒いカバーをはがすとレンズが見えてきます.
(注)分解中の写真を撮り忘れたので,一度取り外したレンズをもう一度はめ込んで撮影しています.そのため,Paint Markが少しずれています.なお,中古品(特にジャンク品)の場合はすでにレンズが抜かれている可能性があります.スキャナーごと入手する場合は注意が必要です.
取り出したスキャナーレンズはこのような形状です.
ちなみにPaint Markがある方がレンズの「前」です.
(なお,逆付け(リバース)で使用した場合は画質が悪化するとの情報もあります.)
さて,このままではカメラに装着することができません.スキャナーレンズにはマウントがなく,ネジも切られていないので,カメラに取り付けるためにはいくつかアダプターが必要になります.
AF-5400スキャナーレンズの径はΦ18ですが,世界中を探せばΦ18をRMS(顕微鏡規格)に変換できる特殊なアダプターが存在しています.まるでAF-5400スキャナーレンズをカメラに取り付けるためだけに存在しているようなアダプターですが,この手の特殊アダプターのメーカーとしてはRafCameraが有名です.私の場合,より安価なFotoHighというブランド?の類似アダプターを入手してみました.
さらにRMSをM42に,M42をFマウントに変換すれば,ベローズPB-5に装着可能となります.
このままベローズPB-5に取り付けるとレンズ長が短すぎてテープLEDと干渉してしまうことから,PB-5の先端に中間リングPK-13を取り付け,その先にAF-5400スキャナーレンズを取り付けています.
これで無事撮影可能となるのですが,何枚か撮影してみると,光の筋のようなものが写り込みました.そこでよく確認すると,Φ18→RMSアダプターからの光線漏れを発見.この部分はクランプしているだけなので,わずかな隙間から光が漏れるようです.このアダプターは取り外す必要がないので,上からマスキングテープで塞いでおきました.
Z6+FTZ+PK-13(27.5mm)+ベローズPB-5(ほぼ最短)で定規をノートリミング撮影すると次のとおりです.
このセッティングだと倍率は約2.5倍になりました.ノートリミングでもケラレは見えません.
Z6+FTZ+中間リング(99.5mm)+ベローズPB-5最長(185mm)で定規をノートリミング撮影すると次のとおりです.
このセッティングだと倍率は約8倍になりました.
AF-5400スキャナーレンズはCLOSE-UP PHOTPGRAPHYによると,焦点距離は39mm(f値は4程度)のようです.また,DiMAGE Scan Elite 5400と5400IIは同一のレンズのようです.
次にAF-5400スキャナーレンズを使用してワモンナガハムシを撮影し,EL-Nikkor 50mm f2.8NとAF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G EDの場合と比較してみました(いずれも深度合成写真です).
AF-5400スキャナーレンズを使用した場合が明らかに最もシャープです.
次に手持ちの機材での最高倍率である約8倍まで拡大してみました(深度合成).
ここまで倍率を上げると,ややねむい印象を受けます.EL-Nikkorはどの倍率でも割と安定していた印象なのですが,スキャナーレンズはその辺はけっこうシビアなのかもしれません.
UPDATE 12 Aug. 2023
逆に倍率を下げた場合についても比較してみました(ただし,スキャナーレンズのクランプ位置により若干変化します).
まず,ベローズを使用せず,FTZに直接取り付けた場合です.
このセッティングでは,倍率は約0.6倍になりました.ワーキングディスタンスは約95mm確保できますが,この倍率では4隅がぼやけてまったく使い物になりません.
次に,中間リング12mm+FTZの場合です.
この場合だと,倍率は約0.9倍になりました.ワーキングディスタンスは約75mmです.0.6倍時と比較して4隅はかなり改善しますが,ややぼやけます.
さいごに,中間リング24mm+FTZの場合です.
この場合だと,倍率は約1.2倍になりました.ワーキングディスタンスは約60mmです.4隅はさらに改善し,実用範囲に入ったという印象です.
AF-5400スキャナーレンズは,倍率が低すぎる場合も十分な性能を発揮できないようです.体感的には2倍から4倍程度の範囲が最も性能を発揮できる気がします.
AF-5400スキャナーレンズは比較的安価に入手でき,かつ非常にシャープな描写を得ることができます.
ただし,デメリットもないわけではありません.以下は私が気づいたデメリットです.
深度合成では数十枚撮影することは普通ですが,スキャナーレンズは絞りがないため撮影枚数が100枚以上になることもよくあります.これは不便といえば不便ですが,その分シャープな描写が得られるので,デメリットとも言い切れない気がします.
最もハードルが高いのはカメラへの取り付けだと思います.AF-5400スキャナーレンズの場合はカメラへのマウントは比較的容易ですが,レンズによってはアダプターが入手できず,カメラへのマウントに困ることも多いと思われます.また,スキャナーレンズのカメラへの装着に関する情報は非常に少ないので,スキャナーレンズの選択自体が難しいです.
AF-5400スキャナーレンズのみですべての倍率に対応することは不可能ですが,標本サイズによっては素晴らしくシャープな描写を得ることができるため,1本持っておいて損はないと思います.